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田舎の2000年歴史ロマン28
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チロリ
チ、チ、チ、チロリロロ、チロリロロ、チロリー
チロリロロ、チリ、チロリロロ、
チロリロロ、チリ、チロリロロ、
チ、チ、チ、チロリロロ、チロリロロ、チロリ
竹笛のお囃子を文字で書き表すとこんな感じになる。
祖父も、父も、こんな風に口ずさんでいたので、私の体にそのまましみこんでいる。父は、この節回しのことを「チロリ」と言っていた。
4月15日は、諏訪神社で春祭りが執り行われるが、その際に獅子舞が奉納される。
この獅子舞はきっと、この地で長い時間を掛けて、受け継がれ、完成され、また、変形してきたものがあると思われるが、生まれつき親しんできた者としては、その独特性に思いが及ぶものではない。
富山県は獅子舞の多い地方らしい。
http://www.toyamaclub.com/sisimai.htm
その土地土地でかなり中身が違っているのも面白いが、それなりの共通点が見出せることも面白い。
だが、長じて、他の街などの獅子舞を見聞きするにつけて、独特と言うか、異様な感じがしてくる。
まず、獅子舞というが、獅子と天狗が登場する。
「共生の里 ささ郷」に獅子舞のスナップ写真が載っている。
http://www.sasagou.com/suwajinzya/pg21.html
獅子と天狗が真剣で立ち合い、火花を散らす舞だ。お互いの剣がバッチと当り、本当に火花を出した時が、最高潮の瞬間で、獅子も天狗もここで力尽き、村人たちに抱え込まれるように倒れ崩れる。
もうしばらく立ち会っていないので、うら覚えになるが、以下のようなストーリーだ。
神社の境内の平地の一角に、おが屑が円形に敷いてある。村人たちがその周りを取り囲み座っている。
まず、獅子が現れ、その円形の広場をぐるりとゆったりと周り、掃い清める。
私の目には、あたかも自分のテリトリーを見回り、マーキングをしている犬のような仕業に見えた。獅子は安心していったん退場する。
少しの間をおいて、天狗が現れる。
匂いを嗅ぎながら用心深く、広場に入ってくる。
獅子がいないことを確認するとわがもの顔に広場を躍動的に踊りまわる。
その様子は、実は猿の踊りのようにも見える。
獅子が異変に気づき、広場に戻ってくる。
獅子は威嚇して天狗に立ち去るように促す。
天狗は、逃げ惑ったり、屁をかましたり、素早く小突いたりして、従わない。
しばし、ちいなさ衝突が続くが、終にお互いに剣を抜いて勝負となる。
剣同士のぶつかり合いは、二回に及ぶ。
どうも最後は獅子が勝っているように見えるが、共に戦い疲れたようにも見える。
いずれにせよ、村人たちは大いに満足して終わる。
侵入者を実力で撃退した歴史を再現しているという解釈も聞いた覚えもある。しかし、もしかすると獅子の方が征服者だったとも言える。
さて、この獅子舞の前後に、ご神体(お神楽)の運びだしと戻しという荒事がある。
荒事というのは、ご神体の担ぎ手がいるのは想像がつくと思うが、それ以外に、ご神体を竹笹で必死に叩く叩き手という若衆がいるのだ。叩き手の役割は、ご神体の進行の妨害となる。荒々しいほど喜ばしいと言われたものだ。
これについては、その昔は、ご神体を山の頂上に急峻な坂道をお迎え、お見送りに行った際の難行を再現しているという話を聞いたことがある。
このような物語性のふんだんなお祭りなのだが、単純な違和感に襲われる。
違和感は、この祭礼が「諏訪神社由来」として相応しいかということだ。
諏訪神社と言えば、御柱祭、御射山祭などが、諏訪地方にまつわる祭りとして有名だが、それらとの共通点はどうも見出しがたい。
当地の諏訪神社には、正八幡社、十二社などが合祀されているので、この祭礼は、山伏(修験者)信仰に近い十二社由来が基礎になっているではないかと単純に思う。生々しい民間芸能として継承されてきたことは間違いないが、原型には山岳信仰の儀式があるようにずーっと感じてきた。
8月27日にも同じ祭礼が営まれるが、春の祭礼は、雪解け後の稲作農作業の本格的な開始号令となる。祭礼が終われば、さあ、田んぼへ、と谷あいの村落の空気は一新する。
谷あいの山里では、雪解けを告げる山草の時が終わり、桜が咲き誇るのもこの時期で、山菜が芽を出し伸び始める。農作業の合間に、山菜を採る頃には、木々は新緑で覆われる。
五月の連休の頃には、田の水も緩み、一家は勿論谷あいの山里総出での田植えとなる。チロリの音色を体内で響かせながら、営々と農作業に精を出すことになる。
田植えが一段落すれば、男たちは出稼ぎに再出発する。
(本稿終わり)
田舎の2000年歴史ロマン28 チロリ 終
サイト掲載日:2016年8月28日
執筆者:長井 寿
サイト管理人:守谷 英明