科学と技術を考える④
研究者は捏造するものか?(その2)
天網恢恢疎にして漏らさず(1)
デジタル大辞泉:
《「老子」73章から》「天の張る網は、広くて一見目が粗いようであるが、悪人を網の目から漏らすことはない。悪事を行えば必ず捕らえられ、天罰をこうむるということ」。
竹岡俊樹氏の怨念を見た
STAP本の話をしていたら読書家の権化と崇拝しているK氏から、竹岡俊樹「旧石器時代人の歴史-アフリカから日本列島、講談社新書メチエ」とその書評、辻篤子「捏造はなぜ見破られなかったか、朝日新聞2011年5月8日」を紹介された。辻書評が興味深い。「石器研究とはどういう方法で何を目指す学問なのか、肝心のことが一般向けに説明されてこなかった、とあとがきにある。(中略)そうした肝心のことが語られていないのは、おそらくこの分野に限らないだろう」と指摘している。鋭い。
竹岡氏の近刊を購入して読んだ。「考古学崩壊-前期旧石器時代捏造事件の深層、勉誠出版、2014年9月25日」という本である。「この本を書くことを決心するのに13年かかった」から始まる本書は、登場人物が実名でかつ公になっている言動で経緯が記述され、新聞記者のメリハリあるドキュメンタリーいうより、捏造を恨む神々の「怨嗟」が地底から聞こえてくるようなシェークスピア劇場物語的実話である。
この「怨嗟」に思わず共鳴してしまうので、予定を変えてこの文を今週まとめることにした。
「マスコミが悪い」
マスコミが基本いいはずがないと思い込んでいる長井には、改めて「マスコミが悪い」と言われると自分の確信を深めてしまうだけで何も得るものがない。先進西欧諸国においても最も売れるネタは、例えばローマではバチカン聖職者達の下ネタスキャンダルであるとローマ人に具他例を示してもらい大いに盛り上がった。ロンドンっ子の話は言うまでもない。マスコミに期待するものは、多様な意見を証拠付きで紹介してもらうことだ。判断は自分の責任であり、マスコミに責任を負わせても始まらない。この捏造事件ではマスコミにも責任がある。
「行政が悪い」
行政が基本いいはずがないと思い込んでいる長井には、改めて「行政が悪い」と言われると自分の確信を深めてしまうだけで何も得るものがない。中国共産党で汚職等の摘発をやっているが、「自分自身」で摘発を行うのは大したものだ。が、反面、利権争いが背景にあるだろうと思うのは、韓流ドラマにはまりすぎたせいだとは思わない。行政に期待することは、多様な利害関係のバランスを考慮しつつ、将来を少しでも明るくしてくれる粘り強い努力だ。行政の長は、有権者すなわち自分たちが選んだのだから、行政が悪いというのは専制国家ではいざ知らず、国民主権国家であれば天に向かって唾している滑稽な絵にしかならない。この捏造事件では行政も責任がある。
「研究者が悪い」
研究者も無条件にいいはずがない。だが研究の捏造は、これは研究者が責任を取らなくてはならないので問答無用で研究者が悪い。最近理事長を辞したノーベル賞受賞者もそう述べていた。この点では全く正しい意見だと思う。この捏造事件もSTAP事件も研究者が一番悪い。そこの本質的な反省があれば、研究は再建できる。
竹岡氏にもなかなか言いにくかっただろうが、「研究者が悪い」という怨嗟が長井には身に染みた。そこにもっと真剣に切り込むべき点があり、これは辻氏のいうようにこの分野だけの課題ではないと思う。
(→続く)
科学と技術を考える④ 研究者は捏造するものか?(その2) 天網恢恢疎にして漏らさず(1) 終
サイト掲載日:2015年3月29日
執筆者:長井 寿
サイト管理人:守谷 英明